またまた診断メーカーのお題です。
ちょうどいい時間だったので、そそさんの誕生日に間に合わせようと思って書いてたら0時過ぎてたよ…どういうことなの!
そんなわけでお誕生日おめでとう。また一年君にたくさんの幸せが訪れますように!
初めて下の名前を呼ぶ。
いつものように呼ぼうとして、口を開いたところでふと詰まった。こちらに背を向けて文机に座り、何やら書き物をしている姿は見慣れたものと寸分変わらず、手を伸ばせば触れられる場所にある。
「……なぁ」
考えた末、曖昧に濁して呼びかけた。彼女はそれだけではすぐに振り向かず、なんだい、と手を止めぬままに軽く答える。
「あー、その……」
そういえば何を言おうとしていたんだっけ。この短い間に忘れてしまうくらいだから、きっとどうでもいいことだったんだろう。そんなことよりも今はもう、新たに思い至ってしまったひとつの事柄にすっかり心奪われていた。
「――なんでもねーや。忘れた」
結局用件は思い出せず、誤魔化すにも適当な言葉が見当たらなかったので素直にありのままを告げることにする。なんだいそりゃ、と呆れた声を漏らした彼女は、怒りもせず苦笑してこちらを振り向いた。その瞳に宿る光はとても柔らかく、まっすぐに見つめ合っているとどうにも居心地が悪くなる。
「すまないね。もうすぐ済むから、もうちょっと待っとくれよ」
「ああ……うん、そりゃもちろん」
さりげなく視線を外しつつの答えは、なんとか不審には思われずに済んだらしい。再び机に向き直り、筆を動かし始めるその後ろ姿をじっと凝視する。
別に気にすることではないのかもしれない。彼女にとっては、今までと何ら変わらないのだろう。どちらが慣れているかと言えば、それはもう言うまでもなく「そちら」なのであって、その事実は今までもこれからも変わらず続いていくのであろうから。ただ今になってそれを知ったこちらの方が、勝手に身構えてしまっているだけで。
「……なぁ」
どうしよう、と考えているうちに。まだ結論も出ていないのに、気がつけば同じ呼びかけをまた繰り返していた。
「思い出したのかい?」
気軽く返されたその問いに、いやそうじゃないけど、と言葉を濁す。それをただ構ってほしいのだとでも思ったのか、彼女はもうこれで終わるよと言いながら、ことりと右手の筆を置いた。
「ほらできた」
ふう、と大きく息をつく。そしてきっと彼女は振り返る、だからその前にと何故かそう思った。何か正体のわからぬものに急かされるように、急速に心拍が上がっていく。実際は多分そんなことないのに、「今しかない」とまるで天啓のように。
「 」
ああやっぱり呼び慣れない。
弾かれたように振り向いた彼女の、驚いて赤くなった顔を見ながら思う。
きっとそれに負けないくらい、自身の顔も真っ赤になっているだろうことは、敢えて気づかないふりをした。