テスト投稿を兼ねてのゼロしい短文。
ちょっと前に診断メーカーのお題で書いたものです。
観覧車で愛を囁くゼロしい。
ゆっくりと上昇するゴンドラの窓から、見える景色が少しずつ遠くなっていく。ちょうど夕暮れ時で茜色に染まる空の中、水平線に沈みゆく太陽がきらきらと白く輝いていた。掛け値なしにとてもいいシチュエーション、女の子を口説くには絶好の機会。……の、はずなのだが。
「ねぇねぇゼロス、やっぱり後でもう一回乗ろうよジェットストリームコースター! 凄いよねぇ上から見てもあんなに高いよ、いいなー、気持ちよさそう……」
「はいはい、後でなー」
当の本人がこの調子では、こちらとしても手の出しようがない。最初は俺さまと遊ぶなんて嫌だ御免だと言っていたくせに、いざ来てみればすっかり楽しんでいる。ま、そんなところも可愛いんだけど。
「でももう日が暮れちまうから寒いぞ?」
「えっ、あー……そっか。ううん、でも……いい、乗る!」
「そ? ならいいけど」
寒いのが何より嫌いなのに、それでも乗るとは物好きな。あのアトラクションは俺さまだって嫌いじゃないが、そこまでして乗りたいほど好きなわけではない。何が彼女をしてそうさせるのか、そこのところは是非知りたいと思う。
「あ、あんたが嫌なら別に一緒に来なくたっていいんだよ!?」
「いーえ、嫌だなんてとんでもない。姫の行くところならどこでもご一緒しますとも」
下手にこんな人の多い場所で一人にして、悪い虫でもついたら堪らないし。
「その姫とか言うのやめなってば。恥ずかしいだろっ」
「やなの?」
「いやその、別に……嫌ではない、けど……」
抗議の声は尻窄みに小さくなって、ごにょごにょと呟くのみになる。ならいいでしょと笑って流すと、よくないと叫んだもののそれ以上言葉は続かないようだった。
「ねー、しいなぁ」
最後のきらめきを残した太陽が、青い海の向こうへ消えていく。その一瞬を狙って呼んで、顔を上げた彼女の瞳をまっすぐに見た。
「……愛してるぜ?」
さっと引いていく光の中で、枯茶色の瞳が大きくまん丸くなる。
ゴンドラが頂点にさしかかる頃、その頬は灯り始めたイルミネーションにも負けないくらい、鮮やかな真っ赤に染まっていた。