膝に乗せる

「あのね、それでそのお花が咲いたんだけどね」
「うん」
「花片がすごく可愛いの。色もとっても綺麗で……」
「きっとソフィが大事に育てたから、綺麗に咲いてくれたんだね」
「そうかな、ありがとう。今押し花を作ってるから、できたらリチャードにもあげるね」
「それは素敵だね。楽しみに待っているよ」
「うん!」
 切れ目なく続く穏やかな会話は、なんともほのぼのとした内容で見る者を無条件に和ませるような光景だった。事実側にいた仲間達は皆、その微笑ましさに目を細めて静かに見守っていたのだが、約一名だけがその輪から少々外れている。
「なあ……あの二人、ちょっと近すぎやしないか?」
 いかにも心配でならないといった面持ちで、そわそわと言ったのはアスベルだ。そしてあの二人というのは無論、彼の親友であるところの青年と少女を指すのだが。
「そうかしら? あれくらいいつものことじゃない」
 すぐにそう言ったのは幼馴染みで、続いて弟が大仰に溜息をついてみせる。
「兄さんは心配性ですね。相手は陛下なんですよ?」
 他でもない貴方の友達でしょうと、言われると反論に困ってしまう。答えに窮したアスベルは、助けを求めるように傍らの師を見遣った。だがその師は一連のやりとりを面白そうに眺めるばかりで、助け船を出してはくれそうにない。
「教官~……」
 情けない声を上げた教え子に、師の笑みは尚更深くなる。
「諦めろ、アスベル。無理に引き離したところで嫌われるだけだぞ」
 明らかに面白がっている表情のまま、一応は宥める言葉を口にする。それを聞いてそんなあ、と肩を落としたアスベルは、尚も恨めしげな視線を二人に送った。
「仲が良いのはいいことじゃないですか」
「そうよ、それに見ていて可愛いし」
「それはそうだけど、でも……何もあんなにひっつかなくたって!」
 大体なんで膝の上なんだ、普通に隣に座ればいいじゃないか。ぶつぶつと言い続ける過保護な父に、周囲の呆れた目が注がれる。そのうちにどんな会話が為されたのか、渦中の二人からきゃっきゃと楽しげな笑い声が上がった。自然、全員の視線がそこに集中する。そしてその只中で、注目を集めていることなど知る由もなく、少女が青年の首にぎゅっと抱きついた。
「あああ……っ!」
 途端顔色を変えたアスベルが、腰を浮かせる前に両側から伸びた手が彼を引き戻した。その主は幼馴染みと弟だったが、さりげなく後ろから首根っこを掴んでいたのは恩師である。
 万全の体制で拘束され、身動きの取れない彼の目の前で。驚きに目を丸くしていた青年が、ふっと破顔して少女を抱き返した。

  

選択課題・ラブラブな二人へ/リライト

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