tender kiss
女の体というものは、どうしてこうどこもかしこも柔らかくできているのだろう。今までに触れてきた女たちも皆そうだったけれど、取り分け彼女の柔らかさそして温かさは、まるで麻薬のように思える。
「……ゼロス?」
緩く抱え込んだ腕の中、小首を傾げた彼女が問う。その意味するところは多分、急に黙り込んだことへの疑問であろう。
「なーんでもない」
ごく軽く答えてから、額へと触れるだけの口づけを落とす。ちゅ、と音を立てて唇を離すと、きゅっと両目を瞑った顔が目に入った。くそう、いちいち可愛いな。
「しいな」
囁き声で低く呼び、薄く目を開いたところで今度は唇を啄んでやる。開きかけた瞼は再び閉じて、長い睫毛がさわさわと揺れた。少し離れて、また触れて、数度繰り返しても彼女は抵抗を示さない。
「ねぇ、もっとしていい?」
呼吸の為の小休止に、声を潜めて尋ねてみる。元より二人きりの部屋では誰も聞いてなどいないけれど、所謂雰囲気作りというやつだ。
「……好きにしな」
恥ずかしそうに頬を染め、目も半ば伏せながらも、素っ気ない許可が投げられた。ぞんざいな言いようも照れ隠しだと、知っていればそれすらも可愛らしい。こちらの様子を窺うように、ちらりと見る上目遣いの視線を迎えれば、心臓が射貫かれたが如く引き絞られる。これで無意識だというんだから、本当にこいつは質が悪い。
「それじゃ、お言葉に甘えて――」
今度は長く。敢えて中には潜り込まず、触れ合うだけの口づけを続ける。時折離れぬまま角度を変えて、ぺろりと舌先でつついてみたり。そうしたら閉じていた瞼が薄く開いたから、間近から目で笑いかけてみた。
「――、……」
瞬間ぱっと花が咲くように、目元の肌が鮮やかに染まった。いつまでも少女のような初々しい反応に、愛しさと微笑ましさが同時に募る。――ああ、しかしそれにしても。
(やーらかいなぁ)
それぞれを構成する物質は己と何ら変わりないのに、何故こんなにも違うのだろう。過去に触れてきた女たちの全てより、尚柔らかく愛しく温かいもの。いつまで、どこまで触れても飽きない、心惹きつけて放さない。
「……ふ、ぁ」
さすがに息苦しくなったのか、とんとんと胸を叩かれた。惜しまずともまたすぐにするから、逆らわず休憩を挟んでやる。はふはふと息を継ぐ姿を見ていたら、もう少し先まで進みたくなった。
「隙ありっ」
無防備なところをわざと狙って、塞ぐなりするりと忍び込む。これは抵抗されるかと思ったのに、どうしたのだろう、彼女ときたら。
(今日は随分素直じゃねーのよ)
おずおずと、拙いながらも絡みついてきたのは彼女の方。思わぬ歓迎に内心驚きかつ喜んで、遠慮なくそれを味わった。
(うん。こっちも、やーらかい)
柔らかくて、あんまり気持ちいいから。
他のところも、余すことなく彼女の全てを、全身で堪能したいと思うのは――自然な成り行き、だと思うでしょ?
- 2010/08/24