一緒に買い物

「ねーしいな、俺さま肉食べたい。肉買おうぜ肉、にーくー」
「……あぁもう、うるっさいねぇ! いいからちょっと黙ってな、値段の計算ができないだろ」
「そんなの数学得意な俺さまが暗算でぱぱーっとしたげるから、ねー肉買ってー。ビーフじゃなくてもなんでもいいからー」
 叱りつけても睨んでも、なお黙ることをしない男を背中に懐かせながら、しいなは深々と溜息をついた。普段買い出しなど面倒くさがってできるだけ逃げようとするものが、珍しくついて来たいと言った結果がこれだ。一応荷物持ちの役には立っているが、こううるさいのでは敵わない。
「わかったよ、ったく仕方ないねぇ。肉屋行って一番安かった奴にするからね」
「えー、一番安いのー?」
 不満げに言う男をぎろりと睨み、視線だけで黙れと一喝する。
「誰かさんが昨日武器を新調したおかげで、路銀が心許ないんだそうだよ」
 すっかりパーティの引率役が板についたリフィルから、出がけに釘を刺されたのだ。減ってきている道具類の補充に資金を割きたいから、食料はなるべく安くて日持ちするものを頼むと。肉類は単価が高い上足も早い。それでも育ち盛りのメンバーが多い関係上買わないわけにはいかないが、あまり高いものを選ぶことはできない。
「買ったの俺さまだけじゃないのに……ロイドくんもなのに」
「ああ、それじゃますますビーフはなしだね」
 言ってけらけらと笑ってやると、ゼロスははあい、としょんぼり肩を落とした。
「あと買うのは……ああ、これもだね。はい、持っとくれ」
「へーいへーい」
「で、残りは卵か。それ買ったら行くよ」
 事前に用意したメモをチェックしつつ、買ったものをひとつひとつ指折り数える。買い忘れがないのを確かめて、踵を返すしいなにゼロスも大人しく従った。
「しーいなー」
「なんだい、妙な声出して」
 やけに甘えるような、媚びるような声音に不審を抱き、牽制の意を込めた目でちらりと見遣る。
「手繋いだりしないー?」
「しない!」
 それでもめげずに言うゼロスに、きっぱりと即答するしいな。だがゼロスはさほど真剣な願いでもなかったのか、ちえ、と言うだけでそれ以上食い下がることはしなかった。買い込んだ荷物の詰まった紙袋を、両手に抱え込んでいたせいもあるかもしれない。
「ま、いーや。どうせ後でもっと色々するし」
「はっ? 後でって……ちょっと!?」
「はい気にしなーい。さっさと卵買おうぜ、んで肉な肉」
「いや肉はいいけどって、こら、待てゼロスーっ!」
 聞こえよがしの呟きに、一瞬立ち止まったしいなを置いてさっさとゼロスが進んでいく。その口元には得意げな笑みが浮かんでいたのだが、そんなことを彼女は知る由もない。

 

選択課題・ラブラブな二人へ/リライト

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